前回はヨルバ、今回はついに正真正銘の「潜水型」神話へ
前回はアフリカ、ヨルバの神オバタラが、金の鎖を伝って天から水の上に降り、貝殻の砂と一羽の鶏で大地を「作り上げた」神話だった。
今回向かうのは北米大陸。ハウデノサウニー(ヨーロッパ人からは「イロコイ」とも呼ばれてきた)の人々に伝わる創世神話だ。舞台はニューヨーク州から五大湖周辺にかけて、現在のモホーク・オノンダガ・オネイダ・カユガ・セネカ・タスカローラの六つの国からなる連合の土地。今回はついに、動物たちが水に潜って泥を持ち帰る、正真正銘の「アースダイバー型」神話が登場する。
この物語の核心は、事件ではなく「考え方」そのもの
今回は先に断っておきたい。これまでの回のような「え、そんな展開に?」という驚きの事件が核心ではない。核心は、一つの考え方そのものだ。
この大地は、誰か一人の強い神が独りで作ったものではない。名もない動物たちが、それぞれ自分にできることをやり、力尽きながら、少しずつ運んだ泥の上に築かれたものだ。そして地上に降ろされた人間は、その大地を所有する立場ではなく、大地を分け合う無数の命のうちの一つに過ぎない。
この「大地はたくさんの命に支えられて、自分たちに渡されたものだ」という考え方は、ハウデノサウニーの創造神話の一場面だけの話では終わらない。政治の仕組みにも、農業の知恵にも、そして現代の環境倫理にまで、同じ考え方が形を変えて繰り返し現れる。今回はその繰り返しをたどってみたい。
スカイワールドから、果てしない水の世界へ
物語は、天の上にあるスカイワールドから始まる。
スカイワールドにはまだ大地がなく、そこに住む人々は空の上の世界で暮らしていた。ある時、身重の女性が、大きな木の根元にできた穴から下をのぞき込む。その木が倒れる、あるいは引き抜かれるという出来事をきっかけに、彼女は穴から真っ逆さまに落ちてしまう。
彼女が落ちていった先にあったのは、果てしなく広がる水の世界だった。水はすでにそこにあった。ただ、大地だけがまだなかった。
動物たちが泥を運び、亀の背に大地が広がる
水面には、水鳥や水中の生き物たちがいた。彼らは落ちてくる女性に気づき、その体を優しく受け止める。
だが、彼女が休める場所がない。動物たちは相談し、水の底にある泥を持ち帰って、彼女の足場を作ることにする。ビーバーやカワウソ、アビ(潜水の得意な水鳥)が次々と挑むが、水はあまりに深く、誰も底にたどり着けない。
最後に挑んだのが、体の小さなマスクラット(北米に生息するネズミに似た水生動物)だった。他の誰もが力尽きて諦めた後、彼だけが力の限り潜り続け、ついに水底の泥をひとつかみ、口の中に持ち帰る。
その小さな泥のかたまりは、大きな亀の甲羅の上に置かれた。すると泥は少しずつ広がり始め、亀そのものも大きくなっていく。こうして水しかなかった世界に、初めて陸地が生まれた。この島は、今日まで「タートルアイランド」と呼ばれている。

娘が産んだ双子――「良い心」と「悪い心」
大地に降ろされた女性は、やがて娘を産む。この娘が成長し、身ごもるのだが、伝承によっては、ここで身ごもるのは母親自身であるとも語られる。語り手や国(モホーク、セネカ、オノンダガなど)によって細部が異なるのは、口承で伝えられてきた物語ではよくあることだ。
生まれてきたのは双子の男の子だった。先に生まれたのは「サプリング(若木)」、後から生まれたのは「フリント(火打ち石)」。この出産で、母親は命を落としてしまう。
二人の性格は対照的だった。サプリングは「良い心」を持ち、光や美しいもの、豊かに実る植物や、穏やかな動物たちを形作っていく。一方のフリントは「悪い心」を持ち、険しい山や荒々しい生き物、危険や困難を形作っていったとされる。
二人は世界の作り方をめぐって何度も対立し、ついには力比べにまで発展する。多くの語りでは、最終的にサプリングが勝利を収めたとされる。ただ、この物語が伝えたいのは、単純な「善が悪に勝った」という話ではないようだ。フリントが形作ったとされる険しさや困難もまた、この世界に組み込まれたまま残り続けている。光だけの世界も、闇だけの世界も存在しない。ハウデノサウニーの世界観では、対立する二つの力が釣り合いながら共存することこそが、世界のバランスそのものだと考えられている。
トウモロコシ、豆、カボチャ――「スリー・シスターズ」という支え合い
この「互いに支え合う」という考え方は、人間が育てる作物にまで及んでいる。
ハウデノサウニーの畑では、伝統的にトウモロコシ・豆・カボチャの三種類を、同じ場所に一緒に植える。この三つは「スリー・シスターズ(三姉妹)」と呼ばれ、それぞれに姉妹の精霊が宿っているとされてきた。長女のトウモロコシは背が高く、まっすぐに空へ伸びる。次女の豆はつるを伸ばして絡みつき、太陽と風を追いかけるように育つ。末っ子のカボチャは地を這うように広がり、大きな葉で地面を覆う。
面白いのは、この関係が単なる言い伝えでは終わらないことだ。豆の根には空気中の窒素を土に取り込む働きがあり、これがトウモロコシの育ちを助ける。トウモロコシは高く伸びて、豆のつるが巻きつくための支柱になる。カボチャの葉は地面の水分を保ち、雑草の侵入を防ぐ。三つは競い合う代わりに、それぞれの得意なことで互いを支えている。「誰か一人が独占するのではなく、それぞれが役割を持って支え合う」という、この後に紹介する政治の仕組みとも重なる考え方が、畑の中にもそのまま息づいている。

ハウデノサウニーとは「長い家の人々」
ここで、今回の主役である「ハウデノサウニー」という呼び名そのものについても触れておきたい。
この言葉は「長い家の人々」を意味する。文字通りの建物の話ではなく、一つの巨大な長い家の中に、いくつもの異なる家族が共に暮らしている、という比喩だ。血のつながりだけで結ばれた集団ではなく、もともと別々だった人々が、同じ屋根の下でどう共に生きていくかを選び取った共同体、というニュアンスが込められている。
グレート・ロー・オブ・ピースと「良い心」の力
この「異なる者同士がどう共に生きるか」という問いに、具体的な形で答えを出したのが、ハウデノサウニー連合の基盤となった「グレート・ロー・オブ・ピース(平和の大法)」だ。
伝承によれば、これをまとめ上げたのはピースメーカー(デガナウィダ)という人物で、その教えを人々に伝える代弁者としてハイアワサが力を貸したとされる。二人が説いたのは、争いを終わらせるために武力で相手を屈服させることではなく、「良い心の力」によって人々を導くという考え方だった。
象徴とされたのが、白い松の大木だ。木の四方には白い根が伸び、その根をたどれば誰でも平和の元へたどり着けるとされた。木のてっぺんには一羽の鷲がとまり、平和を脅かす危険がないか、絶えず見張っているという。そして戦いの武器は、この木の下に掘られた穴に埋められ、地下を流れる川によって遠くへ流し去られたと伝えられている。「戦いの道具を埋める」という表現(英語で今も使われる bury the hatchet という言い回しの由来ともされる)は、ここから来ている。
こうして、もともと争っていたモホーク・オノンダガ・オネイダ・カユガ・セネカの五つの国が一つの連合にまとまり、18世紀初頭にはタスカローラも加わって六つの国となった。それぞれの国は連合の中で異なる役割を担いながら、誰か一人が全体を支配するのではない仕組みを作り上げた。
ここでもう一度、双子の物語を思い出したい。サプリングが体現していたのは「良い心」の力だった。そして数百年後、ピースメーカーが人々に説いたのも、やはり「良い心の力」だった。神話の中の言葉が、実際の政治の仕組みを作る言葉としてそのまま受け継がれている。これもまた、ハウデノサウニーの世界観が神話だけで終わらない一つの証だろう。
「タートルアイランド」は、今も生きている言葉
先ほど紹介した、亀の背中にできた大地――タートルアイランドという呼び名も、遠い昔話の中だけの表現ではない。
今日でも、北米の先住民文化の文脈では、北米大陸そのものを指す言葉として、この呼び名が現役で使われ続けている。そこに込められているのは、「大地は人間だけのものではない」という考え方だ。人間は自然を支配する立場にあるのではなく、数え切れない命とともにこの大地を構成する存在の一つに過ぎない、という世界観が、この一つの地名の中に凝縮されている。
政治哲学としての側面――クラン・マザーと、合衆国憲法をめぐる論争
ここからは軽く触れる程度にしておきたいが、ハウデノサウニーの仕組みには、政治哲学的に興味深い側面もある。
連合の中では、各家系の長である「クラン・マザー(氏族の母)」が、指導者を選び、その職を解く権限を持っていた。指導者は選挙で選ばれるのではなく、母系の血筋によって受け継がれる家系の中から、クラン・マザーによって選ばれる仕組みだった。リーダーとは人々を支配する者ではなく、人々に奉仕する者だという考え方が、この選び方にも表れている。
もう一つ、しばしば話題になるのが、この仕組みがアメリカ合衆国憲法に影響を与えたのではないか、という説だ。ベンジャミン・フランクリンは1751年、13の植民地が連合を作る必要性を説いた手紙の中で、「無知な蛮族と見なされている六つの国が、そのような連合を作り、何世紀も維持できているのに、それより有利なはずの英領植民地にできないはずがない」という趣旨のことを書き残している。1988年にはアメリカ連邦議会が、合衆国憲法の発展にイロコイ連合が寄与したことを認める決議を採択してもいる。
ただし、この説には歴史学者の間でも異論がある。人類学者エリザベス・トゥーカーらは、影響を示す証拠は「非常に薄い」と指摘してきた。ハウデノサウニーの仕組みは母系制で、指導者の地位は選挙ではなく血筋とクラン・マザーの判断によって決まり、代表の数も人口比ではなく伝統的な序列に基づいていた――合衆国憲法の仕組みとは、そもそもの成り立ちがかなり違う、という指摘だ。フランクリンをはじめとする建国世代が、ハウデノサウニー連合の存在をある種の実例として意識していたことは確かなようだが、それがどこまで具体的な制度設計に反映されたのかは、今も学術的な決着がついていない。女性が指導者選びに公的な権限を持っていたという点だけをとっても、建国当時のアメリカの政治とは対照的だったことは間違いない。
感謝の言葉――「すべての前に来る言葉」
ハウデノサウニーの世界観が今も生きている、もう一つの例が「オヘントン・カリワテクウェン」、モホーク語で「すべての言葉の前に来る言葉」と呼ばれる、感謝の言葉だ。
これは特定の儀式のためだけの言葉ではなく、集会や学校の一日の始まりなど、さまざまな場面で今も読み上げられている。人間から始まり、水、魚、植物、動物、木々、鳥、風、太陽、月、星々、そして祖先の教えに至るまで、この世界を構成する一つひとつの存在に対して、順番に感謝を述べていく構成になっている。アクウェサスネ地域などでは、子どもたちがモホーク語と英語の両方でこの言葉を暗唱し、今も教育の中で受け継がれている。
大地は多くの命に支えられて渡されたものだ、という創造神話の考え方は、こうして日々の言葉の習慣としても生き続けている。
北米大陸に広がる、他の部族の神話たち
最後に少しだけ、視野を広げてみたい。ここまで紹介したのはハウデノサウニーの神話だが、北米大陸には、他にも数多くの先住民族がそれぞれの神話を伝えてきた。
太平洋岸北西部のトリンギットなどに伝わる「カラスが太陽を盗んだ」物語は、いたずら好きなトリックスターの神が世界に光をもたらす話だ。大平原や南西部など各地に伝わる「コヨーテ」の物語群も、調子に乗って失敗を繰り返しながら、その失敗が結果として世界のあり方を変えてしまう、トリックスターの物語として知られている。水が世界を覆い、動物が水底から泥を持ち帰って大地を再生する、という筋書きの洪水伝説も、ハウデノサウニー以外の北米各地に形を変えて伝わっている。サンダーバードと呼ばれる巨大な雷の鳥の伝承や、極北のイヌイットに伝わる月の満ち欠けにまつわる物語なども、北米大陸のもう一つの豊かな神話の広がりだ。
これらはハウデノサウニーの物語ではなく、それぞれ別の言語と歴史を持つ、まったく別の民族の伝承であることは強調しておきたい。ただ、水に潜って大地を作るという筋書きが、遠く離れた民族の間でも繰り返し語られているという事実そのものは、今回の物語を、より大きな比較神話学的な問いへとつなげてくれる。
世界中に散らばる「潜水型」の神話
「動物が水に潜り、泥を持ち帰って大地を作る」という筋書きは、実は北米大陸だけのものではない。
シベリアやフィンランド周辺に暮らすフィン・ウゴル系の民族の間にも、水鳥が水底から泥をくわえて持ち帰り、そこから大地が広がったとする神話が伝えられている。学者たちはこうした神話群を「アースダイバー(地球を潜る者)型神話」と呼び、ユーラシア大陸北部から北米大陸にかけて、驚くほど広い範囲に分布していることを指摘してきた。
なぜ、海を隔てた遠く離れた土地で、これほどよく似た物語が語り継がれてきたのか。この問いこそ、このシリーズが最初から追いかけてきたテーマそのものだ。次回はいよいよ最終回。世界中に似た創造神話が生まれる理由をめぐる、二つの大きな立場――遠い昔にどこかから伝わったとする説と、まったく別々の場所で独立して生まれたとする説――を、シリーズ全体を振り返りながら整理していきたい。
出典・参考情報源
- スカイウーマンが木の根の穴から落下し、水の動物たちに受け止められる経緯、ビーバー・カワウソ・アビらの失敗とマスクラットの成功、亀の甲羅に泥が広がりタートルアイランドが誕生する経緯、スカイウーマンが双子を出産し出産時に死亡する経緯: The Haudenosaunee Creation Story — Oneida Indian Nation
- スカイウーマン(ヒューロン名アタエンシック、セネカでは「イージェンハ」と呼ばれること)、双子の名前ハーグウェディユ(サプリング)とハーグウェダエトガ(フリント): Sky Woman — Wikipedia
- 亀の甲羅を土台に動物たちが泥を運んで大地を形成した経緯、スカイウーマンの娘が双子(サプリング=光と美、フリント=試練と火と死)を出産した経緯、双子の対立が調和ではなく均衡から生まれるという世界観: Haudenosaunee Mythology: The Sky World and Turtle Island — Mythlok
- グレート・ロー・オブ・ピースの成立時期(約1190年頃とする説)と条文数、ピースメーカー(デガナウィダ)とハイアワサの役割、ワンパムベルトの考案、ホワイトパインが連合の象徴であること、五部族(モホーク・オノンダガ・オネイダ・カユガ・セネカ)の成立と1722年のタスカローラ加入による六部族化、クラン・マザーによる指導者選出への言及: Great Law of Peace — Wikipedia
- グレート・ツリー・オブ・ピース(白い松)の四方に伸びる白い根、木の上で見張る鷲、武器を木の下に埋め地下の川が流し去った経緯(bury the hatchetの由来)、ピースメーカーが「良い心の力」で人々を導くべきと説いたこと: The Great Tree of Peace (Skaęhetsiˀkona) — Indigenous Values Initiative
- オヘントン・カリワテクウェン(「すべての言葉の前に来る言葉」)の意味、自然界の構成要素一つひとつへの感謝を述べる構成、アクウェサスネ地域の子どもたちがモホーク語と英語で暗唱する現代の実践: Ohén:ton Karihwatéhkwen: The Words That Come Before All Else — Ocean School
- ベンジャミン・フランクリンが1751年の書簡でイロコイ連合を引き合いに出し植民地連合の必要性を説いた経緯、1988年の連邦議会決議によるイロコイ連合の合衆国憲法への貢献の公式な承認: The Native American Government That Helped Inspire the US Constitution — HISTORY
- イロコイ影響説をめぐる歴史学者間の論争、人類学者エリザベス・トゥーカーによる懐疑的な指摘(母系制・クラン・マザーによる指導者選出・人口比に基づかない代表制など合衆国憲法との構造的な違い)、ブルース・ジョハンセンら賛成派の主張: Iroquois and the Founding Fathers — TeachingHistory.org
- スリー・シスターズ(トウモロコシ・豆・カボチャ)がそれぞれ精霊姉妹に守られているというイロコイの伝承、姉妹それぞれの見た目・性格(長女=トウモロコシ、次女=豆、末娘=カボチャ)、一緒に植えることによる相乗効果(豆の窒素固定、トウモロコシが支柱になること、カボチャの葉が保湿・雑草抑制すること): Three Sisters Legend — Northeastern State University
- 「タートルアイランド」という呼び名が現代の北米先住民文化の文脈で北米大陸を指す表現として使われ続けていること: Turtle Island — Wikipedia
- 太平洋岸北西部のトリンギットらに伝わる「カラスが太陽を盗んだ」物語の概要: Tlingit Legends — Native Languages of the Americas

