犬と人間の絆(2) 一万四千年前の墓に、人とイヌが並んで眠っていた

動物

土の中から現れた、もう一つの家族

前回は、イヌがオオカミから分かれ、人懐っこい性質を獲得していった進化の過程を追った。だが、遺伝子の話だけでは実感が湧きにくいかもしれない。

そこで今回は、実際に地中から発掘された、動かぬ証拠を見ていきたい。

世界各地の遺跡からは、単なる労働力や食料としてではなく、家族の一員として弔われたイヌの痕跡が、次々と見つかっている。

世界最古の”愛玩犬” ボン=オーバーカッセルでの発見

1914年、ドイツ・ボン近郊のオーバーカッセルにある採石場で、作業員が偶然、二体の人骨と一頭のイヌの骨、そして骨や角で作られた二つの美術品を発見した。

放射性炭素年代測定により、これらの遺骨は約1万4000年前、旧石器時代のものであることが判明した。人とイヌが一緒に埋葬された例としては、現在確認されている中で世界最古のものとされている。

特に注目すべきは、埋葬されていた子イヌの骨の分析結果だ。このイヌは生後わずか7か月ほどで命を落としていたが、骨の状態から、死ぬまでの少なくとも10週間、重度のジステンパー(犬ジステンパーウイルス感染症)を患っていたことが分かっている。

高熱や嘔吐、痙攣を引き起こし、最終的には死に至ることもある深刻な病気だ。

このことが意味するのは重い。もしこのイヌが単なる狩猟や見張りの道具としてしか見なされていなかったなら、これほど長い間、重病を抱えた個体を生かし続ける理由はなかったはずだ。

人々はおそらく、弱って役に立たなくなった子イヌを、それでも見捨てずに世話をし続けた。ボン=オーバーカッセルの墓は、人類が非常に早い段階から、イヌを”パートナー”や”家族”として扱っていたことを示す、最古級の証拠なのである。

子イヌを抱くように埋葬された女性 アイン・マラハ

同じように心を打つ発見が、イスラエル北部の遺跡アイン・マラハ(エイナン)でも見つかっている。

ここでは、今からおよそ1万2000年前、狩猟採集民ナトゥーフ文化の時代に生きていた一人の女性の墓が発掘された。彼女の骨格は横向きに横たわり、片方の手は、生後3〜5か月ほどの子イヌの胸のあたりに、そっと添えられるように置かれていた。

まるで、今生きているどこかの飼い主が、愛犬に手を添えて眠りにつく姿と重なるようなポーズだ。この埋葬が、単なる偶然の配置ではなく、意図的に行われたものであることは、多くの研究者が指摘している。

1万2000年前の人々もまた、イヌとの間に、言葉にできないほど深い情緒的な結びつきを感じていたのだろう。

犬だけの墓、犬にも副葬品 スカーテホルム

スウェーデン南部の海岸沿いにあるスカーテホルム遺跡群(スカーテホルムI・II)は、今からおよそ7000年前、中石器時代の共同墓地跡だ。

ここで特に興味深いのは、イヌが人間と一緒にではなく、イヌだけのために独立した墓に埋葬されているケースが複数見つかっていることだ。しかも、その扱いは決して粗末なものではない。あるイヌの墓には、石器の刃や赤鹿の角といった副葬品が添えられていた。これは、成人男性の墓に納められていたものと同じ種類の副葬品である。中には、精巧な装飾が施された角製のハンマーと一緒に埋葬されていたイヌもいた。

さらに、赤い顔料(オーカー)がまかれた形跡があるイヌの墓もある。これは人間の埋葬でも見られる儀礼的な行為であり、当時の人々がイヌに対して、人間と同じような弔いの作法を用いていたことをうかがわせる。

研究者の間では、スカーテホルムのイヌたちが、単なる「飼われていた動物」を超えて、ある種の”人格”を持つ存在として共同体に受け入れられていた可能性が指摘されている。

世界中に残る、同じメッセージ

ドイツの氷河期、イスラエルの狩猟採集民、スウェーデンの中石器時代——地理も時代も異なる複数の遺跡から、驚くほど似た光景が発掘されている。人はイヌを、道具としてではなく、悲しみとともに見送るべき存在として扱ってきたのだ。

なぜイヌだけが、これほど早い時期から、世界各地で共通して”特別な存在”になり得たのか。次回は、この問いに対する、意外な角度からの答えを紹介する。カギを握るのは、人間の遺伝性疾患「ウィリアムズ症候群」との、思いがけない共通点だ。

犬と人間の絆(1) なぜイヌだけが、ここまで人に懐いたのか
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出典・参考情報源

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