エヌマエリシュって、そもそも何?
名前の意味は「いと高きところで」
エヌマエリシュは、古代メソポタミアで生まれた神話です。
メソポタミアは、今のイラクのあたりにあった地域です。
実はこの「エヌマ・エリシュ」という言葉は、実際には物語のタイトルではありません。
7枚の粘土板に刻まれた約1000行の神話を指しています。
そして、この「エヌマエリシュ」というタイトルは、物語の書き出しの言葉でもあります。
古代メソポタミアの文学では、現代の本のように作者が「天地創造神話」などのタイトルを付けるとは限りませんでした。 そこで、本文の最初の数語を作品を識別する名前として冒頭の言葉を使うことがありました。
これは『エヌマ・エリシュ』に限った特殊な事情ではありません。 『ギルガメシュ叙事詩』などでも、古代メソポタミアの作品には冒頭の言葉から作品を呼ぶ例があります。
エヌマエリシュの言葉の意味は、概ね「上に、天がまだ名づけられていなかったとき……」といった内容で、実際の本文では「上に天がまだ名づけられておらず、下に地がまだ名づけられていなかったとき……」という内容の言葉から始まっています。
いつ、どこで書かれたの?
書かれた時代がいつなのか?有力な説は、紀元前12世紀ごろ、バビロニアで成立したというものです。
バビロンの王ネブカドネザル1世が活躍した時代です。
この時代、バビロンの守り神マルドゥクが「神々の王」として持ち上げられるようになりました。
エヌマエリシュは、まさにその「マルドゥクが王になった理由」を語る物語です。
もっと古い時代からの言い伝えが土台になっている、という見方もあります。
はっきりしているのは、粘土板に「楔形文字」で刻まれた、ということです。
楔形文字とは 古代メソポタミアを中心に使われた文字です。紀元前3400 〜3200年ごろに現在のイラク南部にあたる地域で生まれたと考えられています。粘土が柔らかいうちに葦などの尖った用具を用いて文字を書き、その形状が細長い楔のような形になったことから楔形文字と言われています。
粘土板発見の経緯
1849年、イギリスの考古学者オースティン・ヘンリー・レヤードは、今のイラク・モスル近郊にある、ニネヴェ遺跡、王立図書館の跡に無数の粘土板の破片が埋もれているのを発見します。
ニネヴェは現在のイラク北部にある古代都市の遺跡です。そこで特に有名なのが、アッシュルバニパル王が収集したと言われている大量の楔形文字の粘土板で、その場所は一般的にアッシュルバニパル王の図書館と呼ばれています。ギルガメッシュ叙事詩もここにありました。

そしてその中に、エヌマエリシュのかけらも混ざっていたのです。
1876年、イギリスの研究者ジョージ・スミスが、粘土板を解読し、世界に発表しました。
エヌマ・エリシュのあらすじ

第1〜3の板:はじまりは「水」だけの世界
大昔、天も地もありませんでした。あったのは、水だけです。
真水の神アプスゥと、塩水の女神ティアマトが、混ざり合っていました。
この二人から、たくさんの若い神々が生まれます。
ところが、若い神々が増えていくにつれ、その騒がしさにアプスゥは我慢できなくなってしまいます。ついには、若い神々を滅ぼすことにします。
その計画を知った若い神の一人エアは、原初の神アプスゥを、自身の知恵と魔術によって眠らせて倒してしまいます。
原文では、エアはアプスゥの上に聖所、または住居――つまり自分の住まいを建てたと語られています。
アプスゥは地下の淡水・深淵を人格化した神であることから考えると、原初の深淵を支配下に置き、その上に自分の神的な領域を作った、ということになるでしょう。
その場所でエアは、息子を一人もうけます。 それが、この物語の主人公マルドゥクです。
第4の板:激怒する妻ティアマト
夫を殺されたティアマトは、激怒します。
復讐のため、11体の怪物を作り、キングゥという神を軍の総大将に立てました。これが第4の板に刻まれていた内容です。
若い神々は、恐ろしいティアマトの軍に対抗できる戦士がどこかにいないかと探します。
そこで、白羽の矢が立ったのが、マルドゥクでした。
マルドゥクはティアマトと戦って打ち倒すための条件を出します。
「もし私が勝ったら、私を神々の王にしてほしい」。神々はこれを認めます。
決戦の日。
マルドゥクは、風の力でティアマトの体を膨らませ、動けなくしました。そして矢を放ち、心臓を貫きます。
ティアマトは倒れました。

第5〜6の板:世界と人間が生まれる
マルドゥクは、ティアマトの体を真っ二つに切り分けました。
半分は天になり、半分は地になりました。
続いて、軍の総大将だったキングゥが処刑されます。
その血を使って、マルドゥクとエアは人間を作りました。
人間の役目は、神々の代わりに働くこと。
神殿の建設や、お供え物の準備など、神々の仕事を肩代わりする存在として生まれたのです。
この物語の最大の見せ場から見えてくるのは、混沌から秩序が生まれたのだというメッセージです。 つまり、混沌とした巨大な存在を切り分けて、秩序ある宇宙へ変化させたというイメージです。
第7の板:マルドゥクをたたえる大合唱
最後の板は、神々がマルドゥクに50個もの称号を贈り、たたえ続ける長い讃美の言葉で締めくくられます。これほど神々しく描かれるのは、マルドゥクが「混沌に秩序をもたらした王」だからです。
なぜ、この物語が大事なの?
エヌマエリシュは、ただの「面白い物語」ではありませんでした。
バビロンでは毎年、新年を祝う「アキートゥ祭」という大きな祭りが開かれていました。
この祭りで、エヌマエリシュが朗読されていた、と考えられています。
つまりこの物語は、バビロンの人たちにとって「毎年思い出す、自分たちの王の物語」だったのです。
さらに、この物語には注目すべき点があります。
「混沌とした水の状態から、世界が秩序立てられていく」という展開です。
先に述べたように、この物語の最大の見せ場から見えてくるのは、混沌から秩序が生まれたのだというメッセージです。 つまり、混沌とした巨大な存在(ティアマト)を切り分けて、秩序ある宇宙へ変化させたというイメージです。
まとめ
エヌマエリシュは、紀元前12世紀ごろのバビロニアで成立したとされる、7枚の粘土板の物語です。
水の神ティアマトを倒したマルドゥクが、その体から世界を、そして人間まで作り上げる。
そんな壮大な創造神話でした。
出典・参考文献
- World History Encyclopedia, “Enuma Elish – The Babylonian Epic of Creation – Full Text”
- Encyclopaedia Britannica, “Enuma elish”
- Encyclopaedia Britannica, “Kingu”
- Wikipedia, “Enūma Eliš”(成立年代・発見経緯の記述を参照。一次資料ではないため、詳細は上記の学術的な出典と突き合わせて確認済み)
- The Seven Tablets of Creation(Internet Sacred Text Archive収録、L. W. King訳)

