世界の創世神話⑽ ヨルバ神話「オバタラ」酔った神様が人間を作ったら、なぜ体の弱い人を守る誓いになったのか

アフリカ神話

ナイジェリアに広がるヨルバ神話

ヨルバ神話は日本人にはあまり馴染みがないかもしれないので、まずは前提となる基礎知識から簡単に解説したい。

今回の話の主人公でもあるオバタラはオリシャと呼ばれる神々のうちの一人です。

オリシャとは、ギリシャ神話の神々や、北欧御神話の神々に近い存在で主な役割としては、至高神との仲介者、自然現象と人間性の象徴、人に近い長所や短所の個性を持つ存在として描かれています。

ヨルバの信仰には世界を創った絶対的な最高神オロドゥマレがいます。

しかしこの最高神は遠い存在とされており、人々はこのオリシャを通して祈りを捧げます。また、オリシャ一人一人は特定の自然要素、(海、雷、鉄、風など)や、人間の感情(知恵、愛、戦いなど)を象徴しています。

そして、オリシャは長所と短所がありまるで人のような弱点や感情があります。

このことから、元々は優れた人間や英雄と言われるような人々がのちに神格化されたのかもしれないとも、言われています。

オバタラが人間を作る

まだ世界に空と大海原しかなかった頃、最高神オロドゥマレの許しを得たオバタラは、地上に陸地を作るため降臨を決意します。

携えた道具は、金の鎖、土の入ったカタツムリの貝殻、五本指の鶏、黒猫、椰子の実です。

天空から降ろした禁の鎖をたどり、地上に降り立ったオバタラは、貝殻から土をまき、鶏を放ちます。

放たれた鶏は土を蹴散らし、蹴散らした土はやがて陸地を形造り、世界が作られたのです。

この最初に陸地になった場所が、現在もヨルパの聖地とされる都市レイ・イフェです。

このようにして大地を作り終えたオバタラは粘土をこねて人間を作り始めます。しかし、作業の合間に椰子の木からとったヤシ酒を飲みすぎ、すっかり酔っ払ってしまいます。

酔っ払ったオバタラの手元は狂い、粘土の人形はゆがみ、背が曲がったり、手足が不自由だったりアルビノの人などが生まれました。

酔いから覚め、目を覚またオバタラはそれらの人々を見て深く反省し、二度とヤシ酒を飲まないと誓い、これらの人々を生涯守り通すことを誓ったのです。

トリックスターの神 エシュ

ヨルパ神話において最も異彩を放ち、誰しもが回避することが不可能な、伝令・運命のイタズラ好きな神がエシュです。

エシュの役割は神と人との通訳、伝令 つまりはメッセンジャーです。象徴する特徴は交差点と選択。

どちらの道を選ぶのか?運命の選択肢を象徴するクロスロードを司る神です。そんなことから、このトリックスターの神エシュがオバタラをそそのかしたのではないかとの言い伝えも残っている。

このエシュに関して、本題から若干それrてしまうが、キリスト教の宣教師がアフリカに来た際に、エシュの本質を正しく理解せずに悪魔(サタン)と誤訳してしまったこともあったようです。しかし、この神話を読み解いていくと、邪悪な存在ではなく、混沌や複数の選択肢を与えることで秩序や教訓をもたらす存在だということが描かれています。

別の伝承 弟のオドゥドゥワが完成させた創造

先に述べた、オバタラがヤシ酒に酔ったエピソードとは少し違うバージョンが存在している。

実はオバダラは人を作る以前、大地を作っている最中にはすでに酔い潰れていて、その隙に弟のオドゥドゥワが兄が持参していた道具一式を使って代わりに大地を創造したというものだ。

このバージョンでは、弟オドゥドゥワこそがイフェの土地を最初に踏んだものであり、初代の王「オニ」を名乗り、彼の子孫たちがヨルバ各地の王国(オヨ王国、ベニン王国など)の建国者となりました。

弟が兄の権利を奪ったのか、泥酔状態を見かねたのか、真意はわかりませんがオドゥドゥワは世界を形作った実質的な功労者として現代まで名が刻まれたのです。

平和の神 オバダラ

酔いから覚めたオバダラは、地上を作り人間を作る任務や栄誉を弟に奪われたことに気がつき、激怒します。二人は激しい神々の戦いを巻き起こし、ついには最高神オロドゥマレらが仲裁に入ります。

オバタラには「人間の身体を想像する権限・精神的、宗教的権威」が与えられ、オドゥドゥワには「地上を治める権限・政治的、世俗的王権」が与えられることになりました。

この対立、実は本当にあった話かもしれない

神話的な側面とはべつに、歴史学的にはオドゥドゥワは東方からやってきてイレ・イフェの先住勢力(オバダラ派)を征服・統合し、ヨルバの王国の基盤を築いた実在の英雄とする説が有力だとする説も紹介したい。

歴史学者O・B・ラウユイは、オバタラをもともと西南ナイジェリアの土着の人々を治めていた指導者、オドゥドゥワを外からやってきてその土地を征服した勢力の指導者、として読み解く説を発表している。

二つの勢力がいつ、どのようにぶつかったのか、正確な時期は分かっていない。ただ、政治的な実権を失った後のオバタラが、神話の中で「平和の象徴」としてヨルバの信仰体系にしっかり組み込まれ、生き延び続けたという構図は、征服者の物語と敗者の物語が一つの神話の中に同居している例として興味深い。

さらに、19世紀のヨルバ人歴史家サミュエル・ジョンソンは、当時語られていた「オドゥドゥワはメッカからやってきた」という起源譚に、真っ向から異を唱えていた。

彼は自著『ヨルバ人の歴史』の中で、ヨルバの祖先はアラビアではなく、むしろ古代エジプトのコプト教徒(初期キリスト教徒)ではないかという独自の説を提示している。

その根拠として彼が挙げたのが、ヨルバの伝承の中に、天地創造や大洪水、預言者エリヤを思わせる人物の話まで、聖書の物語によく似た筋立てが点在している、という指摘だった。

真偽のほどはさておき、19世紀の当事者自身がすでに「この神話はどこか遠くから来た話が混ざっているのでは」と考えていたのです。

実在するイフェの都、考古学的発掘の結果

考古学的な発掘によれば、イフェは11世紀から15世紀にかけて大きく繁栄した。ヨルバの人々にとって、この土地はまさに「世界が創られた場所」であり続けてきた。

イフェから出土した数々の頭部像は、その精巧さで世界的に知られている。青銅やテラコッタで作られたそれらの像は、化学分析によって11世紀から15世紀のものと確認されており、「ロストワックス(蝋型)鋳造」という高度な技術で作られた傑作揃いだ。誰を表しているのか——王なのか、神なのか、敬うべき祖先なのか——は、今も完全には分かっていない。

なぜこれほど「頭部」に集中して像が作られたのか。ヨルバの信仰では、人の生命力(アシェ)は主に頭に宿ると考えられている。だとすれば、頭部だけを丁寧に作り込んだこれらの像は、ヨルバの人々にとって、その人物の力そのものを形にした像だったのかもしれない。

この神話は、ヨルバの土地だけでは終わらなかった

16世紀から19世紀にかけての大西洋奴隷貿易によって、数百万人のヨルバの人々が、意に反して新大陸へ連れて行かれた。信仰も言葉も奪われかけたその中で、オバタラをはじめとするオリシャたちへの信仰は、姿を変えながらも生き延びた。

キューバのサンテリア、ブラジルのカンドンブレといった信仰の中で、オバタラは今も最も敬われる存在の一柱として祀られている。現地のカトリック教会の聖人と重ね合わせる形で、その名前と物語は今も受け継がれている。

オバダラは過ちを認め、自己を清め、欲望を絶ったという態度の変化こそ、神聖であり純粋さの象徴とされており現代においても彼を祀る衣服や儀礼具は全て白で統一されている。

また、失敗したからこそ不完全な人間の苦しみやもろさに寄り添う存在となりました。

もともと、彼が人を作る役に抜擢された理由は穏やかで冷静な精神を買われたからでした。

傷ついたものや不完全さを拒絶するのではなく、自分の作品として愛して手厚く保護した姿勢が、大西洋を越えて、まったく違う大陸の信仰の中に今も息づいている。

次回予告

次回は北米大陸、ハウデノサウニー(イロコイ)の人々に伝わる創世神話へ。今回のオバタラは、鎖を伝って天から降り、砂で大地を「作り上げた」神だった。次回の主人公はスカイウーマンと、水に潜って泥を取ってくる動物たち。同じ「大地を作る」神話でも、今度は正真正銘、水に潜る神話が登場する。


出典・参考情報源

  • オロドゥマレ(オロルン)の性質(全知全能、性別を超えた存在)、オバタラが「land from the waters」を分離した創造神話バージョン: Orisha — World History Encyclopedia
  • オバタラが金の鎖・巻貝の砂・白い鶏・黒猫・ヤシの実を携えて天から降りた経緯、鶏が砂を広げて山と谷を作った経緯、パーム椰子で森を作った経緯、トリックスターの神エシュに唆されて酒に酔い人間創造に失敗した経緯、酔いが覚めた後に二度と飲まないことと障害者の保護を誓った経緯、弟オドゥドゥワが袋を持ち出し大地創造を完成させて「大地の神」の称号を得た経緯: Ọbatala — Wikipedia
  • オロドゥマレ・オバタラ・オドゥドゥワの関係、金の鎖での降下、貝殻の土と鶏・鳩による土地形成、カメレオンによる大地の検査(硬さの確認): Yoruba Religion — Mythopedia
  • オロルン(天)とオロクン(水)、オバタラの創造の申し出、預言の神オルンミラによる道具の指示、鶏による陸地形成、人間創造時の酩酊と障害のある人物像の創造、オロクンの怒りによる洪水とその収束: Yoruba Creation Myth — ENG 250コース教材, Mt. Hood Community College Pressbooks
  • 歴史学者O・B・ラウユイによる、オバタラを西南ナイジェリア土着の指導者、オドゥドゥワをその征服者とする解釈、政治的敗北後もオバタラが「平和の象徴」としてヨルバの神々の体系に組み込まれ生き延びたという指摘: O. B. Lawuyi, “The Obatala Factor in Yoruba History,” History in Africa (Cambridge University Press)
  • 19世紀のヨルバ人歴史家サミュエル・ジョンソンが自著『The History of the Yorubas』で、オドゥドゥワの「メッカ起源説」に異を唱え、古代エジプト・コプト教徒起源説を唱えたこと、その根拠としてヨルバ伝承と聖書(天地創造・大洪水・預言者エリヤ)の類似を指摘したこと: Samuel Johnson’s view about Oduduwa in connection with the origins of the Yoruba — SciELO South Africa
  • イフェが11世紀から15世紀にかけて繁栄した経緯、ヨルバの人々がイフェを創造の地と考えてきたこと、オドゥドゥワが地と水を分離したとする建国神話、青銅・テラコッタの頭部像が化学分析により11〜15世紀のものと確認されていること、失われた蝋法による製作技術、頭部への集中がヨルバの信仰における生命力(アシェ)の所在を反映しているという見方: Ife — World History Encyclopedia
  • 大西洋奴隷貿易を経て、オリシャ信仰(オバタラを含む)がキューバのサンテリア・ブラジルのカンドンブレとして新大陸に受け継がれ、現地のカトリック聖人と重ね合わされて信仰され続けていること: Obatalá in Santería: Orisha of Purity, Wisdom, and Creation — Santería GuideThe Vitality of Yoruba Culture in the Americas — Ufahamu (UC eScholarship)
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