科学で読み解くライフハック(2) 「靴紐が緩むと悪いことが起きる」を追ったら、物理学に行き着いた

ライフハック

根拠を探しても、出てこない言い伝え

——こうした言い伝えは昔から語られてきたが、いつ・どこで生まれたのかを示す確かな記録は見当たらない。似たものとして「左足の紐がほどけると好きな人から告白される」といった恋愛系のジンクスも語られているが、これらもあくまで根拠のはっきりしない俗説の域を出ない。

このシリーズでは、出典を確認できない伝承は「あくまで言い伝えとして」扱う。

ただし今回、この言い伝えの周辺を調べていくと、思わぬところで本格的な科学研究にぶつかった。

テーマは「そもそも、なぜ靴紐は勝手に緩んでほどけるのか」という、誰もが経験しながら誰も本気で調べてこなかった謎だ。

「誰も研究していなかった」ことに気づいた工学者たち

2017年、米カリフォルニア大学バークレー校の機械工学チームが、学術誌「Proceedings of the Royal Society A」にある論文を発表した。テーマはずばり「靴紐はなぜほどけるのか」。

きっかけは、研究チームの一人が娘とジョギング中に何度も靴紐がほどける様子を見て、素朴な疑問を持ったことだったと報じられている。調べてみると、これほど身近な現象にもかかわらず、それまで誰も本格的に検証していなかった。研究チームはスローモーションカメラを使い、2年以上かけて靴紐がほどける瞬間を詳しく分析した。

「衝撃」と「振り回し」のダブルパンチ

分析の結果分かったのは、靴紐がほどけるのは単なる偶然ではなく、二つの力が組み合わさって起きる、ほぼ必然的な物理現象だということだった。

歩いたり走ったりすると、足が地面に着地するたびに、結び目には重力の最大7倍もの衝撃が瞬間的に加わる。

この衝撃が結び目を一瞬だけ緩める。さらに、足を振り出す動作によって、靴紐の両端が鞭のように振り回される力が加わり、緩んだ結び目からわずかに残っていた締まりを一気に引き抜いてしまう。この二つの力が数秒のうちに連鎖することで、結び目は突然、雪崩のようにほどけていく——というのが研究チームの結論だ。

実は「結び方」で強度が変わる

この研究のもう一つの発見は、「同じ蝶結びに見えても、実は強い結び方と弱い結び方がある」ということだった。

一般的な蝶結びは、最初に紐を交差させてから輪を作るが、この最初の交差のねじり方向によって、結び目の性質がまったく変わる。

二つの交差が逆向きになる「本結び(スクエアノット)」がベースになっている場合は結び目が平らになり、強度が高い。

一方、二つの交差が同じ向きになってしまう「縦結び」がベースの場合、結び目がねじれて、ほどけやすくなる。見分け方として、強い結び方では紐の先が靴を横切るように配置され、弱い結び方では紐に沿って縦に並ぶ、という違いが確認されている。

つまり、いつも同じように結んでいるつもりでも、無意識のうちに「ほどけやすい結び方」を選んでしまっている人が多い、ということだ。

今日からできる対策

研究結果から導けるライフハックはシンプルだ。

  • 結び目が「横向き」になっているか確認する:蝶結びの根元が靴を横切るように結べていれば、強い「本結び」ベースになっている可能性が高い
  • 二重結びにする:研究そのものの対象ではないものの、単純に結び目を二重にするだけで、ほどける頻度は大きく減るとされている
  • ランニングなど衝撃の大きい場面では特に注意する:着地の衝撃が大きいほど結び目が緩みやすいことが分かっているため、運動前には結び方を見直す価値がある

「靴紐が緩むのは不吉の前兆」という言い伝え自体に科学的根拠はない。しかし「なぜ靴紐が緩むのか」という問いには、れっきとした物理学の答えが用意されていた。

次回予告

第3回は舞台を一気に6世紀のヨーロッパへ移す。スマートフォンもタイマーもない時代に、驚くほど精密な「時間割」で生活していた人々がいた——修道院の話だ。現代の時間管理術のルーツをたどる。

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出典・参考情報源

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