童歌の謎(7) 意味は「行けない」しかない、なのに全国区になった理由 ーでんでらりゅうばー

方言のリズムで手を動かす子供たちのシルエット。長崎の手遗び歌「でんでらりゅうば」のイメージ わらべ歌

指を動かしながら、方言を口ずさむ

想像してほしい。

四拍子のリズムに合わせて、子供たちが懸命に指を動かす。飛び出す言葉は、他の地方の人間にはほとんど意味がわからない、九州弁まみれの謎の呪文だ。

「でんでらりゅうば でてくるばってん でんでられんけん でーてこんけん こんこられんけん こられられんけん こーんこん」

長崎に伝わるこの手遊び歌、実は現代語に訳すと、

「出られるならば出ていくけれど、出られないので出ていかない。来られないから、行けない」

——たったこれだけだ。壮大な陰謀も、悲しい由来もない。

ただ「出られない」「行けない」という、ある種のあきらめだけが繰り返されている。

「でん」も「こん」も、実は意味の薄い飾り言葉

同志社女子大学の日本語日本文学科教授・吉海直人による解説によれば、冒頭の「でん」や「こん」は、字数・調子を整えるための繰り返し言葉にすぎないという。

「ばってん」は長崎弁として広く知られる逆接表現、末尾の「けん」も九州弁で「だから」「ので」を意味する。「こん」は古語「来ぬ」の名残で、本来は「来ない」の意味だが、訳す際には「行かない」としたほうがわかりやすいそうだ。

つまりこの歌は、もともと歌詞の意味よりも、語呂の良さそのものが主役だったと考えられている。

曲名すら正式には存在せず、歌い出しの「でんでらりゅうば」がそのまま通称になっているという点からも、それがうかがえる。

「こじつけ」と切り捨てられた、いくつもの由来説

意味がシンプルな分、この歌にもさまざまな由来説が語られてきた。

地名や妖怪めいた「でんでら龍」、日露戦争、長崎の花街・丸山の遊郭、あるいは夜這いの歌、凧上げ(はたあげ)の歌——挙げられる説はバラエティに富んでいる。

しかし吉海はこれらについて、「どれもこじつけのようだ」とはっきり評している。

むしろ「子供たちは意味なんてわからなくても、面白いから、リズミカルだから、歌い続けたのだろう」というのが、研究者としての見立てだ。内容としては、かごめかごめの「籠の中の鳥」のように、”出るに出られない”閉塞感に通じるものがあるかもしれない、とも指摘されている。

日露戦争と結びつける説の中身

数ある由来説の中でも、比較的具体的な形で語られているのが、日露戦争(1904〜1905年)当時に流行した『長崎節』との関連だ。

この『長崎節』には「ロシヤの軍艦なぜ出んじゃろか」「コサック騎兵はなぜ来んじゃろか」といった、日露戦争を色濃く反映した歌詞が含まれている。「でんでらりゅうば」がこの『長崎節』の元歌だったのではないか、という見方もあるようだが、これも確証を持って裏付けられた話ではない。

意味不明なまま、全国区になった経緯

意味のシンプルさとは裏腹に、この歌は驚くほど広く知られるようになった。きっかけは1984年、長崎で創業したカステラの老舗・文明堂が、自社のCMソングにこの曲を採用したことだった。

その後、2006年には長崎出身のシンガーソングライター・さだまさしが、長崎弁ラップ曲「がんばらんば」の中でこの歌を引用。

NHK教育テレビの「にほんごであそぼ」でも取り上げられ、2010年には同じく長崎出身の福山雅治が、稲佐山でのライブの入場曲に使用したほか、ベストアルバムにも収録した。

2012年にはトヨタ自動車パッソのCMで、仲里依紗と川口春奈が振り付きで歌う映像が話題になっている。近年ではアニメ「妖怪ウォッチ」の人気曲「ようかい体操第一」に登場する「妖怪 出るけん出られんけん」というフレーズも、この歌を引用したものと見られている。

意味のシンプルさこそが、生き残った理由

「でんでらりゅうば」には、これまで見てきた童歌のような重厚な陰謀論も、痛ましい由来説も存在しない。研究者自身が複数の由来説を「こじつけ」と一蹴しているという点で、むしろ異色の存在だと言える。

意味を欠いたまま、方言のリズムと語呂の良さだけを武器に、CMソングやアニメの中で生き延び、全国区の知名度を獲得していった——この歌の”強さ”は、意味の重さではなく、意味のなさそのものにあったのかもしれない。

次回予告

いよいよ最終回。じゃんけん遊びの定番「おちゃらかほい」を取り上げ、全8回のシリーズを締めくくる。ここまで見てきた童歌たちに共通する”謎の正体”を、最後に整理する。

童歌の謎(1) 「後ろの正面、だあれ」——たった一行が生んだ、十以上の”真相”
目隠しをした子は、知らない想像してほしい。夕暮れの校庭か、どこかの路地裏。一人の子が目隠しをして中央にしゃがみ込む。周りを他の子たちが手をつないで輪になり、ぐるぐる回りながらこう歌う。「かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩…

出典・参考情報源

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